読んだもの

色々なことを次々に忘れていくのでメモ。

『おんなのこの正体』、ベースとなるアイディアは要するに『だめんずウォーカー』と大差ないんだけど、自分はこっちのが断然好きだな。くらたまのマイルドでソフトでほのぼのした作風とは対照的に、粘着質で生々しくてメスの匂いがぷんぷんするこのリアリティー。この辺、『SPA!』と『サブラ』という媒体の特質の違いというのもかなり大きいのだろうけど。いや、安彦麻理絵見くびってましたよー、ごめんなさい。

おんなのこの正体

おんなのこの正体


で、こちらは書評の依頼があって文学フリマ前日に泣きながら書いたんですが、小説がねー、すっごく泣けるんですよ。『デジモノステーション』という雑誌に原稿を書いたんで詳細は控えますが、読んでいて、はると奥田民生の資質がまったく正反対だ、ということにあらためて気づかされてしまって。

生まれつきどうしようもないほど不器用で、その不器用さを誠実に包み隠さずロックンロールに託すことでなんとか生き延びてきたピーズのはると、音楽的にも人間的にも器用で立ち回りがうまいがゆえに現在のポジションにすっぽり収まることのできた民生。片や、「実験4号」をカヴァーしたトータス松本をして「俺は、はるになりたかった」と言わしめたほどの才能を持ちながらも、それをうまく使いこなすことができず、アル中になったり、突然バンドを止めて厨房でバイトしたりしまう、はる。片や、音楽的偏差値の高さをフル活用した“ビートルズの法則”で口当たりの良い楽曲を量産し、作務衣にバンダナという、一見テキトーに見えてちゃっかり時流に乗ったファッションも含め巧みなキャラ設定に成功した民生。

でもこのふたり、プライベートでもすごく仲いいんですよね。たぶん、お互いにないものを持っているから、なんだろうなー。まあ、音楽的な趣味はかなり近いからそれもあるんだろうけど。あ、僕がどちらにシンパシーを寄せてしまうのは、言わずもがな、であります。みんなピーズを音楽的にちゃんと評価しようよー。絲山秋子を筆頭に、映画や文学の領域にはここまで影響与えてるんだからさー! 銀杏BOYZサンボマスターも、ある意味、ピーズ・チルドレンなわけじゃないですか。

小説の中に、はるが自らの嗜好について語ったインタビューが何度か引用されてるんですけど、その中のひとつ、「末期的な夕やけ空みたいな」音楽がいい、という発言。こんなにも腑に落ちる表現、はじめて見た。

実験4号

実験4号