今更ですけど、ミドリってすごかったのね。

正直、みんな過剰に騒ぎすぎなんじゃねーの?とか、ギョーカイ的に今キテます!みたいな雰囲気がなんだかなーと思い、ちょっと敬遠してたところあったんですが、先入観で判断しちゃいけませんね。新作、とんでもないことになってるんですよ。ミドリ。前作も嫌いじゃなかったけど、ここまでのインパクトはなかった。格段に演奏がタイトになったんじゃないの?と思ったら、ベースが正式メンバーに交代してるのね。ガラの悪い椎名林檎をフロントに据えたファントマスがジャズを覚えた、みたいなたたずまいではありますが、亀田誠司プロデュースなどといういかにもーなアイディアをあえて実践せずにこのまま我が道を進んでほしいところ。今のざらざらした手触りはやすりをかけたら消えちゃうし、小奇麗にまとめない粗暴さこそが見えない魔法の源泉だと思うので。とりあえず、5・15のライヴ行こうと思います。あと、このHPのイラスト好きだなー、と思ったら、山本直樹先生ですか。

http://midori072.com/jindex.html

……と書いてみて、あらためてCDを聴いてみたらなんか聞き覚えあるなあ、と思ったら、ゲルニカ!? 昔、『ロック画報』(06年3月売り号)に書いた再発レビュー↓。


 ウォシュレットのCMで戸川純の存在がメインストリームに浮上したのは1982年のことだが、それから20年余、気が付いたら?戸川純的なるもの?はあちこちへ浸透・増殖しているのだった。例えば、秋葉原のコスプレ・アイドルや原宿を闊歩するゴスロリ少女の起源を、ランドセルを背負ってライヴに登場したかつての戸川に求めることはできないだろうか? あるいは、チャラや椎名林檎以降の感情吐露型女性シンガーにその影響を嗅ぎ取ることは? もちろん当人は意識せずとも似てしまうこともままあるわけで、ヨーロッパの映画音楽やクラシック、オペラなどをかろやかに咀嚼して見せる小島麻由美も、ゲルニカ時代の戸川とダブって見える瞬間が多々あったりする。
そんな戸川純のアルファ時代の5作品が、関連盤4枚と併せてソニーから再発される。こじつけかもしれないが、なんだが必然性のありそうなタイミングでのリリース、まあ、聴き直すにも初めて聴くにも丁度いいと言えなくもないだろう。
シンガー戸川純の本格的なデビュー作となるのが、上野耕路、太田蛍一と結成したゲルニカの『改造への躍動』。オペラとテクノ・ポップと昭和歌謡を折衷したような世界は、まるでクラフトワークがクルト・ワイルの『三文オペラ』を演奏しているかのよう。宅録ゆえに音質はチープだが描かれる世界観は近未来的であり、そのミスマッチが珍妙なレトロ・フーチャー感を生み出している。細野晴臣の誘いで、アルファ・レコード内のYENレーベルから82年に発売された。


 元々演劇を志していた戸川のヴォーカルが文字通り芝居じみてくるのが、初のソロ・アルバム『玉姫様』。女性の生理を「神秘の現象」と歌い上げるタイトル曲、パッヘルベルの「カノン」に歌詞を付けた「蛹化の女」の他、「昆虫軍」「隣りの印度人」などハルメンズのレパートリーも収録。ロリータ・ヴォイスからドスの効いた低音まで、多重人格者のように声色を使い分ける彼女の?名優?っぷりが早くも全開となっている。
戸川純とヤプーズ名義での『裏玉姫』は、84年にカセットのみで発売されたライヴ盤。ラフォーレ原宿でのライヴをMCも含め収録した音源だが、ヴォーカルのハジケっぷりはスタジオ盤の比ではない。小刻みに痙攣するようなギターが耳を刺すヤプーズの演奏も荒々しく、まさしく玉姫さまのあられもないご乱心ぶりが堪能できる。
戸川純ユニット名義での『極東慰安唱歌』(85年)は、民謡やフォルクローレ唱歌を収録し、浪漫ちっくなトーンでまとめた異色作。戸川のエキセントリックなキャラクターはやや薄められているが、注目すべきはイタリアのオペラ作曲家、プッチーニの曲を取り挙げている点。シンガー戸川純と非ロック音楽との密接な関係を明示する象徴的な選曲で、先述の小島麻由美との相似性を裏付ける根拠ともなるだろう。
85年の『好き好き大好き』は、チェッカーズの曲と言われても信じてしまいそうな、ポップでオールディーズっぽいアイドル歌謡が中心。歌詞はラヴ・ソングだがどれも屈折しており、表題曲では<愛してるって言わなきゃ殺す>なんて軽やかに歌ってのける。時代背景や歌詞に登場する人物像も含め、岡崎京子の『東京ガールズブラボー』とシンクロする部分が多く、ぜひ同書をサブ・テキストに聴いて欲しい。ちなみにアルバム・タイトルは、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』でも引用された精神科医R・D・レインの『好き?好き?大好き?』から取ったと思われる。
87年リリースの『東京の野蛮』はベスト・アルバム。とはいえ12曲中8曲が別ヴァージョンでの収録で、シングルのみの発売だった「レーダーマン」も含み、ファンには嬉しい構成だ。
アポジー&ペリジーというキャラクターを設定して作られたコンセプト・アルバム『超時空コロダン旅行記』は、アルバム単独では初めてのCD化。アポジーこと三宅裕司とペリジーこと戸川純が、越美晴上野耕路らゲストを迎えSF的で寓話めいた世界を描き出すシアトリカルな一枚。ジム・オルークもフェイヴァリットに挙げている。
85年にリリースされた上野耕路のソロ・アルバム『Music For Silent Movies』は、1920年代にマン・レイデュシャンが制作した短編無声映画に音楽を付けるところから始まったアルバム。ゲルニカに顕著な、上野のクラシック/現代音楽への造詣の深さが見て取れる内容だ。
『B.G. WORKING SONG〜+』は、戸川純の妹で02年に逝去した戸川京子の音源集。86年のアルバムに84年のデビュー・シングル(作詞作曲は近田春夫)を追加収録した。バブルガム・ブラザーズ戸川純がゲスト参加した「責任とってよ」を筆頭に、OLの恋愛が主題になった歌詞が多く、バブル期特有のうわついた気分が反映されている。
なお本文では触れなかったが、同時発売されるDVD『玉姫伝〜ライヴ含有』では、幼女や巫女や昆虫に扮しライヴに臨む戸川純の姿を見ることができる。まさにこれぞ元祖コスプレ。思わずメイド喫茶で働く戸川純の姿を想像してしまった…のは筆者だけだろうか。土佐有明