読んだもの、見たもの
先日、ヤンデレものばかり貸してくれる漫画ソムリエに薦められた、さそうあきら『1+1は?』。これ、今まで読んだ漫画の中で最も深い狂気を感じました。なんせ、登場人物も作者も、自分が狂人であることをまったく自覚していないんですよ。で、実そういう人が本当はいちばん怖いんですよね。狂人の振りをしたがる常人ほど、こっけいで「まとも」な人はいない。その点、さそうあきらはホンモノです。いいのか悪いのかは別として。
特に最後の家庭内暴力の話。こういう物語って、常人の俯瞰的視点を通して狂人のおそろしさをデフォルメする方向に行きがちだけど、この話では家族全員が頭がおかしいので「狂っていること」がデフォルトになっています。普通なら、常人が登場して「この家族変だ!」と喝破することで、狂気の輪郭が明瞭になるわけですが、ここでは、その役回りを期待されていたおねえちゃんの彼氏も、気づいたらその狂気に呑み込まれて、最後には病んだ家族の仲間入り。表面的な設定は、石井ソーゴの『逆噴射家族』にヒントを得てる?と思ったけど、着地点は全然違う。狂人の奇行をプロ野球のスコアでもつけるみたいに淡々と記述する方法は、島尾敏夫『死の棘』→吉田アミ『サマースプリング』といった小説の系譜に位置する、といえなくもない?
絵柄も特徴的で、登場人物は一様に、感情を表に出さず、というか感情を持っていないロボットのようであり、存在感がきわめて希薄。幽霊みたいなんですよ、皆。それでいて『神童』とか『マエストロ』みたいな娯楽作(というにはやっぱりちょっとパースが狂ってるんだけど)も書けるさそうあきら、すごくない!?
あと、死体描写が象徴的だけど、、同じヤンデレにカテゴライズされるものでも、たとえば『ひぐらしのなく頃に』なんかとは作風が正反対。さそうの書くヤンデレは、喜怒哀楽をそう簡単に顔に出さないし(そのぶん余白で読者に自由に想像させる)、分かりやすいエログロでごまかさない。あれ読んだら、ひぐらしがいかにエンタメ寄りなのかが分かった。さそうあきらは純文学なんじゃない!?
いやー、さそうあきら、山田花子とか華倫変みたいに、下手に自殺とかしないところが、ますます何かありそうでコワいですわー。未読のもの、入手不可能のものも多いらしいのだけど、コンプリート目指して読んでみようと思う。
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