お前のかあちゃん元シノラー

そろそろ三十路を迎えようというオリーブ少女のその後、というのは自分のここ数年の研究テーマのひとつだったんですが、これはまあなんとなく推測がつくんですよ。雑誌難民と化した中古オリーブ少女(by岡崎京子)たちは今、下の日記で書いた安全ちゃんが言うように「クウネル、夜カフェロハスなどに拡散し、局地戦の中で乙女ヘゲモニーを奪取し」てきた、と。個人的には、雑誌で言うと『クウネル』や『リンカラン』に走っている方々にはちょっと胡散臭さを感じていて、むしろ元真性オリーブ少女は『装苑』『流行通信』『エルガール』『FUDGE』『In Red』あたりを読んでるのかな、という印象。当事者の皆さん、どうでしょう?

もちろん、その他にも彼女たちの行く末はさまざまで、サンプルも多数あり。たとえば、ヴィレッジ・ヴァンガード下北沢店の店員だった木村紅美の『風化する女』という小説。『ひなぎく』に憧れて自主映画を撮っていた美大生の元オリーブ少女たちが、その後普通のOLになったり、沖縄病にかかって離島へと移住した様子を描いた秀作です。これ、時代考証もしっかりしているので、元オリーブ少女必読ですよ!! ちょうど『ひなぎく』もDVD化されたことだし。いやー、あれはいい映画ですよね!

ちなみに余談ですがワタクシ、復刊後のオリーブで土屋アンナさんの連載の構成をやっていたんですよ。まだ彼女がブレイクする前、アンナさんが色々なミュージシャンに会ってギターを習得する、という連載。ギターが弾けて譜面がある程度読めるライター、ということで紹介されたのでした、確か。

さて、それはおいといて。一方、シノラーのその後はどうなったのでしょう? 唐突? いや、鳥居みゆきの「お前のかあちゃんシノラー」っていうギャグが好きすぎて。真相はなぞですが、っていうか周りにシノラーいなかったので微妙なところですが、篠原ともえ本人は、とてもいい歳のとり方をしてるんですよね、これが。

詳しくはHPを観てほしいんですが、小劇場で役者として練磨を積んだり、鈴木亜美に楽曲を提供したり(新作のDVDでスタジオワークに勤しむ彼女の見目麗しき姿が拝めます)。そして、歳相応のファッションも似合っているし(APCとかZUCCAとかうまく着こなしてそうな)、大人っぽい顔立ちも素敵。しかもどうやらサブカル方面への興味も強いらしく、コーネリアスピナ・バウシュチェルフィッチュ、つまり僕が最近行ったライヴや公演にぜんぶ行ってるという。

もともと彼女、「似非」ではないアーティストっぽさがあった人だと思うんですよ。そもそも『メガフォンスピークス』というアルバムで、山本精一バッファロー・ドーター、さかななどと組んでいた彼女。これ出たの98年ですよ、98年! まさに早すぎた名盤。もちろん内容もすばらしく、これを聴くと、昨今の鈴木亜美やmegのメソッドは篠原の二番煎じじゃないか、という気すら……。そういや自分、以前、『ロック画報』という雑誌にこんな原稿を書いてました(レビューの対象は『ムーンライダーズのイイ仕事』)。

うう、この辺のテーマで長い原稿書きたいなあ。

6・5付記:その後、無事かけました。
http://d.hatena.ne.jp/ariaketosa/20080604/1212547007

あまり賛同してくれる人がいないのが残念だが、篠原ともえの『メガフォンスピークス』というアルバムが大好きだ。このアルバム、岡田徹も在籍するya-to-iをはじめ、小西康陽バッファロー・ドーター、さかな(!)、少年ナイフ山野直子などがプロデューサーとして参加。よーく聴くと細部で凝ったことやりつつも、最終的にはポップな、いい意味で素人っぽい作品に仕上げている。そういえば、山本精一坂本美雨のプロデュースもしていたけれど、こういう組み合わせがもっとあったら、歌謡曲、特にアイドル歌謡は面白くなるのに、と思う。実際、80代年にはそういう組み合わせが当たり前にあったんだろうし(岡田由希子と坂本龍一とか、郷ひろみと南佳考とか、山口百恵と宇崎龍道とか)。……というようなことを、ムーンライダーズのメンバーが作詞、作曲、編曲、プロデュースなど、何らかの形で関わった楽曲をレコード会社別に集めたシリーズを聴いて考えた。

そう、ライダーズって意外とアイドル歌謡に数多く携わってきているのだ。堀ちえみに渡辺美奈代にアグネス・チャンに原田知世キャンディーズ。僕がこのシリーズで惹かれたのも、荻野目洋子や伊藤つかさ(ヴィクター篇)、安田成美、香坂みゆき(徳間ジャパン篇)、斉藤ゆう子(ユニヴァーサル篇)、畠田理恵西野妙子(ワーナー篇)あたりだったりする。
これらの楽曲には、彼らの猛烈にポップな側面がこれでもかというくらいに凝縮されている。おそらくこういうポップさは、ライダーズでやるには、あまりにもオーソドックスすぎたり大衆性が強すぎて、出しにくいところもあるんだろう。それが、第3者的に関わっている作品、それもアイドル歌謡というコマーシャルなフィールドなら、なんのテレもなく素直にポップな部分を全開にしてしまえる、ということなんじゃないだろうか。
ベストテン世代である僕は、上に挙げた曲のいくつかを、おそらくどこかで耳にしていたと思う。で、多分、その頃は何も難しいことを考えずに単に「いい曲」として聴いていた。いや、「いい曲」ということすらも、ひょっとしたら意識していなかったかもしれない。ただ、曲のある部分が頭に焼き付いていて、気付いたら口ずさんでいた、という程度。しかし、アレンジの妙など、細部の仕掛けにはまったく気付かないうちに、無意識にメロディを刷り込まれていた……というこの構図こそ、大衆的ポップスの醍醐味ではないか。
ライダーズのハードコアなまでのポップさを象徴する4枚である。土佐有明


ひなぎく [DVD]

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風化する女

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